白雪姫「女同士入れ替わりと、女同士の憑依が好きです。


by irekawari
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上城由羽先生 「Search for me-私を捜して-」

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『妖魔西遊記』
「上城由羽」先生
秋田書店 プリンセス・コミックス
全1巻





『妖魔西遊記』に収録の読み切り短編
「Search for me-私を捜して-」に、男女入れ替わり話があります。




あらすじ

英一は眠っていたが、自分の名前を呼ぶ声が聞こえ、目が覚めた。
目が覚めると、英一は病院のベッドの上だった。
ベッドの脇には、自分の名前を呼んでいた男が一人立っていた。
男は、英一が目覚めたことを喜んでいる。男は英一に、「お前は今朝事故に遭って脳しんとうを起こして病院に運ばれた」と、今の状況を説明する。
英一は男の姿を見ると、急いでベッドから上体を起こし、こう声をかけた。
「須藤さん!!どうしてあなたがここにいるんですか!?」
見ると、須藤と呼ばれた男も顔に少しケガしている。しかし、ケガといっても本当に軽いケガだ。それでも、英一は須藤の容態を本気で心配する。
須藤に「俺よりお前のほうが大変だったんだ」と言われ、英一はやっと自分が事故に遭ったことを認識する。
そして、事故のことを思い出そうとするが・・・
なんと、英一は過去のことを全く思い出せなかった。自分自身のことさえも。

医者の話によると、「事故のショックによる一時的な記憶喪失」らしい。
医者は「若いし、怪我も大したことないから、精神的に落ち着けばすぐ回復する」とかなり楽天的。英一はすぐ退院することになった。

病院の外で、ベンチに座って話し合う英一と須藤。
英一はやはり、須藤の名前以外思い出せないでいる。
英一は須藤を「須藤さん」と呼ぶが、須藤は「貴明でいい」と、いつものように名前で呼ぶよう勧める。
英一と須藤貴明は幼馴染み。もう10年以上の付き合いになる。
貴明は英一を心配していろいろ親切にするが、英一はなにも思い出せないことを気にして、すまないと思ってしまう。
あと、英一はなぜか自分を「あたし」と呼び、親友のはずの貴明に対しても、なぜか丁寧な口調で話しかけている。しかし貴明はそれを事故のショックのせいだと思い、ことさら変だとは思わなかった。
とりあえず、英一は丁寧な口調をあらため、自分のことを「オレ」と呼ぶようにし、できるだけ気さくに貴明に話しかけるようにした。

英一は貴明から事故について詳しいことを聞いた。
英一と貴明が乗っていたバスに乗用車が突っ込んできて、重軽傷者20数人を出したが、死者は出なかった。貴明の話によると、けっこうな衝撃だったらしい。
英一も、衝撃を感じたことは覚えていた。その後、身体が浮くような感覚があって・・・。しかし、それ以上は思い出せなかった。

記憶が思い出せなくてさらに不安がる英一に対して、「不安になるぐらいなら俺を頼れ」と、親友として優しい言葉をかける貴明。その言葉を聞いて、英一は胸の鼓動の高鳴りを感じた。
この熱い気持ちには覚えがある。
貴明を見ているときに、いつも感じていた気持ちだ。

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そう、俺は貴明が好きだったんだ!!

自分の禁断の思いに気付いてしまった英一は、慌ててその場を去り、自宅に帰った。
自宅の自分の部屋で、自分の禁断の思いを再確認する。
俺は貴明のことが好きで、しかも片想い。その思いは、いつも胸に秘めているだけだった。
男が男に恋するなんて変態的なことだ、もうこれは黙っているしかない!と決意する英一。

興奮してしまい、結局一睡もできなかった英一。
バスに乗り、貴明と一緒に学校へ向かう。
バスの中でセーラー服を着た女子高生をみかける英一。
あれは女子校である東高の制服だと説明する貴明。
英一は突然「あの制服を着たことがあるような気がする」と言う。
貴明は「見たことあるの間違いだろう?」と諭す。少なくとも、英一にはそういう女装趣味はないらしい。

英一は貴明と同じくサッカー部だったらしい。
記憶と取り戻すため、という名目で、貴明と一緒にサッカー部の練習に出る英一。
しかし、本当は「好き」と思っている貴明と少しでも一緒に居たいためだった。
ボールを蹴っている貴明を見ていて、「オレはいつもこうして貴明を見ていた、貴明の相棒である英一をうらやましく思っていた」と、昔の感情を思い出す英一。
しかし、英一は自分である。自分で自分をうらやましく思っていたなんて、おかしい。英一の疑念はふくらんでいくばかりだ。

練習の後、英一は貴明と一緒に下校した。
下校中、バスの中でみかけた制服の子と同じ制服を着た二人連れの少女をみかける。
その子を見た英一は、思わず少女二人のうち一人に、「ちあき!」と声を出す。
しかし、ちあきと呼ばれた少女は、英一のことを知らないみたいだ。
人違いだったと言い、少女達を見送る英一。

しばらくして、だんだん記憶が鮮明になっていく英一。
さっきの少女の一人は「ちあき」で、もう一人は「のりこ」。その他、彼女達に関係することを思い出す英一。
ちあきとのりこ、そしてもう一人、彼女達といつも一緒だった少女がいたはず・・・。

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その子の名は・・・「沙英」

英一は全てを思い出した。
貴明は、英一に記憶が戻ったと思い喜ぶ。
しかし、英一は自分は英一ではないと言う。

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「あたしは一ノ瀬沙英、女の子なの!あの事故のとき、中身だけ入れ替わっちゃったの!」
英一は、いや沙英は、貴明に信じてほしい、と告げた。


沙英と貴明は、本物の沙英が入院している病院に向かった。
病院には沙英の母親がいた。沙英は英一の身体になってしまっているため、沙英の母親には沙英だとは分からない。
沙英は母親にすまないと思いつつ、自分の身体が居る病室に向かった。
沙英の身体は、あの事故以来、ずっと眠ったままなのだそうだ。

病室で、眠ったままの自分の身体を貴明に見せる沙英。
沙英は、こうなった経緯を説明し始めた。

ある日、友達と一緒にサッカーを見に行った沙英は、試合中の貴明を見て以来、ずっと貴明に憧れの感情を抱いていた。そして、サッカーをしているとき、いつも一緒にいる英一をうらやましいと思っていた。
事故の日、貴明達と一緒のバスに乗っていた沙英は、嬉しくて、そばで話がしたいと思った。そして、いつも貴明のそばにいて、一緒にボールをおいかけることのできる英一を、あらためてうらやましく思った。
沙英は、なれるものなら英一になりたいと思った。
その瞬間、事故は起こった。

これで事実は解明したが、元に戻る方法が分からない。
男同士のアブノーマルな恋ではないと判明して安心はしたが、男の英一の身体のままでは、結局まともな恋愛をすることはできない。悲しみに暮れる沙英。
貴明は、あきらめる前に、とりあえず沙英の身体の英一を起こしてみようと提案する。
今までにも、沙英の身体が目覚めるよう、沙英の母親を始め、いろんな人が声をかけてきた。しかし、中身は英一なので、「沙英」と呼びかけても、反応するはずはないと語る貴明。たしかにそのとおりだ。
貴明は少し強引な手に出ることにした。
貴明はいきなり沙英の身体を掴み起こし、「英一!起きろ!」と大声で叫びながら身体を激しく揺さぶる。
効果があったのか、「う・・・」と声を出す沙英の身体。あともう少しだ。
貴明は奥の手を使うことにした。
「あれを世間にバラすぞっ」
そう貴明がつぶやくと、なんと沙英の身体は目を覚まし、「それだけはやめてくれ!」と言いながら貴明の身体をつかんだ。

その瞬間、沙英の魂は沙英の身体へ、
英一の魂は英一の身体へ、それぞれ元の自分の身体に帰っていった。
沙英と英一の身体は、元に戻ったのである。

元に戻ったことが分かり、思わず抱き合ってしまう沙英と貴明。その後、恥ずかしさのあまり二人はすぐ離れてしまう。
しかし、貴明はたとえ沙英が元に戻ったとしても、優しいままだった。
貴明は「今まで通りそばにいてほしい」と沙英に告白する。
沙英は嬉し涙を流し、笑顔で「うん」と答えた。


そしてただ一人、全く事情が飲み込めていない英一は、一人虚しく疑問の叫び声をあげるしかなかったのであった。


というお話。








途中まで「事故による単なる記憶喪失&アブノーマルな男同士の恋愛」と思わせておいて、途中で「実は入れ替わりだった」と判明する、話の構成がとても斬新だと思います。

そもそも、「入れ替わった後、記憶喪失になってしまう」というのがとても珍しいケースだと思います。普通の入れ替わりものだと、たとえ他人の身体が入れ替わっても、「自分は自分」だという認識はありますよね。
でもこの作品だと、事故のショックで身体が入れ替わってしまうだけでなく、自分が誰だったかも分からなくなる。身体が入れ替わってしまうほどの激しい衝撃なわけだから、そのまま記憶までなくしてしまうというのも、特に不自然ではなく、普通に納得できます。
改めて考えてみると、身体が入れ替わってもなお、「自分は自分」だと認識出来るというのも、けっこう凄いことのような気がします。自分の意志ではなく、不慮の事故で他人と身体が入れ替わってしまったら、「この身体は他人のものだ」と思っている自分の精神こそがおかしいのではないか、とか思うほうが自然なような気もします。

とはいえ、この作品で沙英が自分を英一だと思ってしまったのは、記憶喪失になったから、というのも理由の1つですが、目の前に「元の自分の身体」がなかったから、という理由もあります。
入れ替わった直後に、目の前に自分の身体があったら、さすがに「自分の元の身体はあそこにあるけど、自分は他人の身体になってしまった」ということが分かると思います。
普通の入れ替わりものだと、入れ替わった直後は、大抵当人同士はすぐ近くに居ますよね。例えば二人同時に事故に遭ったら、病院で隣同士のベッドの上で目覚めて、隣に居る自分を見て、入れ替わっていることを認識したり。
階段や落雷や頭をぶつけての入れ替わり、機械による入れ替わりでも、大抵は入れ替わった直後はすぐ近くに居ますよね。もしくは、入れ替わった当人同士が別々の場所で目覚めても、大抵はあまり時間をおかずにすぐバッタリと出会ったりしますよね。なので、普通の入れ替わりでは、「自分が誰だか分からない」というような状況にはなりにくいと思います。

そこでこの作品では、事故で入れ替わりを起こし、二人は別々の病院に運ばれ、一人は病院で眠ったまま、一人は記憶喪失、ということにして、入れ替わった当人同士がなかなか出会わないようにしています。一人は目が覚めない、一人は記憶喪失というのも、「事故のショックが大きいから」という理由があるので不自然ではないです。


事故やら病院やら、単語だけ書くと重々しい印象を受けるかもしれないですが、漫画そのものは基本的に明るいタッチで進むので、サラリと読むことができます。時々ギャグ描写もあり、堅苦しい印象はありません。
貴明の身体の沙英が禁断の恋に悩む様子も、ややコミカルっぽい感じで描かれていて、さらに、男が悩んでいるというよりは、思春期の悩める女の子が悩んでいる、といった感じで描かれているので、見ていて共感できます。さらに、自分を「オレ」と呼んだり男っぽい口調にしているけど、立ち居振る舞いはやっぱり女の子っぽいので、そのギャップが見ていてなんだか楽しいです。
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by irekawari | 2007-06-27 23:44 | 入れ替わり作品の紹介・レビュー