白雪姫「女同士入れ替わりと、女同士の憑依が好きです。


by irekawari
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シャイニング・ガーディアン 第13話 その5

第13話「真夜中の大決戦!!リリカの一番長い夜」
その5




イザベラは暗く沈みかけた気持ちを振り払うかのように頭を左右に振り、顔を上げ、しっかり前を見て、またゆっくりと裏通りを歩き出した。
時間はすでに夕方で、そろそろ、日の入りを迎えようとしている。建物や木々にかかる影がどんどん長くなってきている。通りには学校帰りの人や仕事帰りの人が増えてきていて、裏通りといえども、人の姿が目に付くようになってきた。
イザベラは誰かとすれ違いそうになったらすばやく物陰に隠れ、その人をやり過ごし、またゆっくり歩き出す、ということを繰り返しながら、自宅への道を急いだ。

やがて、大きな建物がある通りに出た。
イザベラ「あ・・・うちの学校に出てきたんだ・・・」
目の前に、リリカが通っている桜花小学校がある。小学校としては、わりと規模が大きい。
イザベラ「弱ったな~、回り道していたらすごく遠回りだし、でも学校の中、まだ他の子がいっぱいいて、みつかっちゃうかもしれないし・・・」
リリカの家に行くには、学校の前を通り抜けるのが一番の近道だ。しかし学校のグラウンドでは、校庭で遊んでいる子や部活している子もいる。職員室にはまだ明かりがついているし、先生にみつかる可能性もある。

イザベラ「あれっ、健二じゃん」
見ると、もうだいぶ日が暮れかかっているというのに、グラウンドではサッカー部の男子がまだ練習をしていた。リリカはその中に、クラスメイトの八木健二の姿をみかけた。健二は「やんちゃ」「わんぱく」という言葉がぴったりな元気少年で、リリカに対してはしょっちゅうイタズラにしてきたり、なにかと口をはさんできたりすることが多いので、あまりいい印象がない。が、嫌いというわけでもない。健二はイタズラ好きではあっても、カラッとした性格で陰湿なところがなく、リリカは健二とよくケンカはするが大抵、すぐ仲直りしていた。
イザベラ「ふーん、あいつもまあ、ふつうにああしているところを見たら、けっこうかっこいいじゃない」
イザベラは柱に影に隠れながら、グラウンドでボールを蹴る健二を見て、ふとつぶやいた。
イザベラ「って、なにかっこいいとか言ってんのよあたし!あんなやつ、どーでもいいんだから!」
ひとりで顔を赤くしているイザベラは顔をぶんぶんと振り、気を取り直して、できるだけ学校内の子にみつからないように、学校前を横切ろうとした。

健二「うわっ、な、なんだよお前ら!」
イザベラ「!?」
健二の叫び声がしたので慌てて振り返ると、上空からたくさんの下級妖魔が翼をはためかせながら、学校のグラウンドに降り立っている。その数、約20体ほど。先程、真希と会ったときより数が多い。
少年A「そ、空からなんかいっぱい・・・来た!?」
少年B「こ、こいつ、は、離せよ!」
少年C「みんな逃げろ!」
少年D「誰か、先生呼んでこい!!」
健二「こいつら、最近テレビに出てる、妖魔ってやつか!?ほんとにいたんだ・・・ってそんな場合じゃねえ!おい、お前!三島を離せ!」
健二はサッカーボールを地面に置き、渾身の力で蹴った。ボールは下級妖魔のうちの一体の頭部に命中、妖魔は思わず、腕に掴んでいたサッカー部員の三島少年を離した。地面に落ちる三島。
健二「おい、大丈夫か三島!?お前も早く逃げろ!」
三島「あ、ああ」
健二「みんな固まるな!四方八方に散らばるんだ!!こいつら、あんまり足は早くないぞ!」

イザベラ「妖魔が・・・学校にまで来た!?」
妖魔はたびたびこの町を襲っているが、まだ学校が襲われたことはない。しかし今現実に、リリカが通っている桜花小学校に妖魔が現れ、生徒が襲われている。
今、自分はガーディアンではない、妖魔イザベラの身体だ。魔法は使えない。翼も落下時に痛めてしまっていて、飛ぶことも出来ない。あるのは、イザベラが腰に差していた、この細身の剣だけだ。
イザベラは鞘に収まっている剣の柄に右手を添える。杖を媒介に魔法を使って戦ったことはあるが、剣を振り回して戦ったことなどない。そもそもこの剣で妖魔が倒せるのか、それすら分からない。
しかし、同じ学校に通う友達を、みんなを、見殺しには出来ない。
イザベラは、塀に片手をついて自分の体を浮かして塀を乗り越え、グラウンドの中を蹂躙している下級妖魔たちに向かって駆け出した。


ハイヒールのブーツにもだいぶ慣れてきた。なんとか走ることができる。
イザベラはまだ逃げることが出来ないでいるサッカー部員の男子に襲いかかっている妖魔一体に狙いを定め、接近、走りながら抜刀し、刀身を振り上げた。
イザベラ「ええええええぇぇぇぇぇぇぇい!!」
バシッ
イザベラは妖魔の腰のあたりを横薙ぎにしようとしたが、剣は妖魔の体にめりこむこともなく、反動ではじきとばされてしまった。勢いをつけていた分、反動も大きい。剣はイザベラの手を離れ、2~3メートルふっとんでしまった。
イザベラ「いったぁ!な、なにこれ、全然切れないじゃないのぉ!?」
一撃で倒すことはできないまでも、傷つけるぐらいはできると思っていただけに、拍子抜けしてしまった。
妖魔「グガァァ・・・」
腰の後ろになにか衝撃を受けたことで、イザベラが切りかかった下級妖魔が振り返り、イザベラのほうを見た。
イザベラ「きゃっ!?ちょっと待ってよ!!」
妖魔に気づかれたイザベラは剣がふっとんでいった方へ横っ飛びに避け、着地間際に体を回転、転がりながら剣を拾い、その勢いを利用して立ち上がった。
イザベラ「なにこの剣!?切れないの!?」
イザベラは剣を垂直に構えて、刃の部分に人差し指を添え、スッと、刃がついている方向に少しだけ指を引いてみた。
ぷしっと、イザベラの人差し指の先が割れ、そこから赤い血が出てきた。指先に、鋭い痛みが走る。
イザベラ「いったぁーーーーーーーーーー!!切れるじゃないこれ!なんで妖魔相手だと切れないのよ!?」

健二「なっ、なんだぁ?」
仲間を逃がすため、妖魔に向かって練習用のボールを蹴り飛ばしていた健二は、突然女のヒステリックな叫び声が聞こえてきて、驚いてそちらを振り向いた。
健二「な、なんだあれ、コスプレかよ?」
見ると、何体もの妖魔たちの群れの中に、20代後半ぐらいの女性がいるのが見える。パッと見は普通の女性だが、服装が、奇抜という他になかった。テレビゲームのロールプレイングゲームに出てきそうな鎧を着ている、しかもその鎧は恐ろしく表面積が少なく、肌の大部分が露出している。パッと見の印象は、ほとんど裸に近い。耳は、それこそゲームに出てくるエルフのように長く、尖っている。極めつけは翼だ。背中に翼がついている。まるでコウモリの羽のようなその翼は血管さえ見えそうなぐらいリアルな質感で、学芸会の劇に使うような安っぽい作り物にはとても見えなかった。
そして、手には細身の剣らしきものを持って、なにやらわめいている。もう、怪しいを通り越してアブない人だ。
健二「あ、あのオバサンも妖魔の仲間か!?」

イザベラ「だぁれがオバサンよっ!!」

健二「うわっ!?」
健二とその「アブないオバサン」とはかなり離れていたはずなのだが、その女はぜか健二のつぶやきを聞きとり、怒りの形相でこちらを振り向き、剣を手にしたままこちらに向かってドシドシと歩いてきた。
イザベラ「ほんとにあんたって口悪いわね!女の子泣かすようなこと言っちゃダメってあれほど言ってるでしょ!?」
健二「はぁ!?な、なに言ってんだよ」
目の前までやってきた見知らぬ女に一気にまくし立てられ、健二はおもわずその勢いに飲まれた。
イザベラ「健二、あんたも早く逃げて!ここはあたしがなんとかするから!」
健二「え!?オバサン、なんで俺の名前知ってんだ!?」
イザベラ「オバサンオバサン言わないでよ!あたしだって今、好きでこの身体でいるわけじゃないんだから!」
健二「わけ分かんねえよ、なに言ってんだあんた?」

梨々歌「きゃーーーーーーーーっ!」
イザベラ「!?」
健二「あの声は!?」
突然、少女の叫び声がしたのでイザベラと健二は声のしたほうへ振り返った。
健二「野々原!」
イザベラ「ま、また!?」
校舎の中から、「野々原梨々歌」が走りながら出てきた。そして校舎の入り口からは、何体もの妖魔が梨々歌を追いかけるようにして出てきた。
健二は思わず梨々歌に向かって駆け出した。取り残されるイザベラ。
イザベラ「ちょっ・・・健二、待ってよ!」

健二「おい野々原!お前帰ったんじゃなかったのか!?」
梨々歌「忘れ物があったから取りに帰ってきたの。そしたら、変な化け物が襲ってきて・・・」
全速力で走ってきたのか、梨々歌は苦しそうに息を吐いている。しかし、今のところ特に怪我はしていないようだ。
イザベラ「またあいつ・・・今度はなにをしようっての!?」
さっきの真希の件もある。イザベラはいやな予感がしつつも、健二と梨々歌のいるほうへ向かっておいかけた。なにを考えているのか知らないが、これ以上あいつをのさばらせていたら、大変なことになる。
校庭には、逃げ遅れた生徒が何人か、手足をぐったりさせて倒れている。妖魔に「命のエナジー」を吸われたのだ。「命のエナジー」を吸われた人間はすぐには死なないが、動くこともできない、半仮死状態になる。この状態で放っていたら、いずれ死に至る。が、「命のエナジーを吸った妖魔を倒せば、「命のエナジー」は本人の元に戻り、また以前のように元気になることができる。
今までは、妖魔が「命のエナジー」を吸っても、リリカが得意の攻撃魔法で問答無用で全て倒してきたため、被害はなかった。が、今は違う。今のリリカには妖魔を倒す術がない。「命のエナジー」を吸われた者がどのぐらいの期間を経て死に至るのかは、リリカには正確には分からない。だが、出会った頃にワン太郎に聞いたことがあるのをリリカは思い出した、たしか、だいたい1日ぐらいしか持たないらしい。今、校庭で四肢をぐったりさせて横たわっている子が皆、死に至るかと思うと、リリカはぞっとした。

まずい。
このままでは非常にまずい。

リリカは漠然と、自分の家に帰ることしか考えていなかったが、それよりまず自分の身体を取り戻すことを考えなくてはいけなくなった。
しかし、どうやって!?
考えが思いつかない。
思いつかないが、とりあえず今は駆けるしかない。目の前に、襲われている人がいるのだから。
イザベラ「ちょおおおりゃああああ!!邪魔よ!!」
イザベラの進行方向上にいた下級妖魔は彼女の勢いに乗った飛び蹴りを食らい、奇怪な叫び声をあげながらふっとんだ。


イザベラ「イザベラ!!今学校を襲っている妖魔を全部退却させて!!一体も残さずよ!!それと、あたしの身体を早く返して!!」
梨々歌「きゃあっ!」
イザベラは梨々歌の喉元に剣先を突きつけようとした・・・が。
健二がすばやく梨々歌を正面から抱きしめるように覆いかぶさり、梨々歌をかばった。
イザベラ「!!」
健二の意外な行動に、イザベラは思わず体をビクッと震わせた。健二の背中に当たりそうだった剣先を思わず引っ込める。
梨々歌「健二!」
健二「野々原、大丈夫か!?」
イザベラ「ちょっ・・・健二、なにしてんのよ!?」
リリカは健二とはしょっちゅうケンカをしている。口が悪い、暴力的、イタズラ好き、スケベ、とまるでいいところがない。健二にしてみても、なにかと口を出してくる梨々歌のことは、たぶん嫌いなはずだ。同じクラスになって以来、仲良くした試しがない。
健二は問題児だが、妙に男気はある。多少の正義感が働いたのかもしれない。
しかし、それにしたって、この非常時に、梨々歌をかばう理由にはならないはずだ。

健二「こいつは・・・ただのクラスメイトだよ。クラスメイトを守っちゃ、悪いか!?」
健二は梨々歌を後方にかばいながら、一歩前に出て、イザベラと向かい合った。身長は2倍ほども差があるが、それでも健二はおびえたりせず、まっすぐにイザベラの目をにらみつけた。
梨々歌「健二、危ないよ!健二も早く逃げようよ!」
梨々歌が、健二に後ろからしがみついた。
イザベラはなぜかその行動がひどく腹立たしく感じられた。
健二「馬鹿!しがみつくな!動けねーだろーが!」
梨々歌「だって、このままじゃ健二、このオバサンに殺されちゃうよ」

リリカの心の奥底にどす黒い感情が沸き起こる。

どうしてこいつは人が腹立つようなことばかりするのだろう。
わけも分からぬうちに身体を交換させられ、落下のときに怪我をしてまだ身体のあちこちが痛い、さっきは友達に石を投げられた、それはこいつが芝居をしていたからだ、あたしは騙されたんだ、今は同じ学校の生徒たちが命の危険に晒されている、でも今のままではみんなを救えない、なぜか?身体を入れ替えられているからだ。普段仲の悪い健二があたしをかばっている、でもその「あたし」は「あたし」じゃない。その「あたし」にはイザベラが入っているんだ。またなにかを企んでいる。あたしになりすまして、これ以上なにをしようっていうのよ!?

イザベラ「どいてよ健二、そいつは妖魔よ!?一番悪いのはそいつなのよ!?なんで、なんでそんなやつかばうのよ!?あたしが、あたしが本物の野々原梨々歌なんだから!!」
健二「!?」
梨々歌「健二、耳を貸しちゃだめよ、あたし、さっきもそいつに追いかけられたの。なんか、変なことばかり口走って・・・完全におかしいのよ、その人」
梨々歌が、健二の背中から顔だけを出して、健二の耳元でささやいた。そのとき、少しだけイザベラと視線があった。

なぜだろう。見慣れた自分の顔のはずなのに、今は憎たらしいとしか思えない。

イザベラ「ああっ、もう!!全部説明してあげないと分かんない!?あのね、あたしは桜花小学校6年の野々原梨々歌で、ある日突然あたしのところにしゃべる犬がやってきたの!外見が犬みたいなだけで犬じゃないんだけど、まあ犬よ!その犬は光の国の使者で、闇の軍勢から人間界を守るためにある力を持ってやってきたの!あたしはその犬から力をもらって正義の魔法少女になったの!魔法の力で、この街を守ってきたの!でもついさっき、2~3時間前に、空飛んでいるときに、妖魔の指揮官・・・こいつよ、こいつ!名前はイザベラっていうの。こいつに、身体を入れ替えられちゃったの!あたしが妖魔で、妖魔があたしになっちゃったの!さっき、あたしの身体になったそいつは怪我してて血を流していたけど、それは演技だったのよ、嘘っぱちなの!気をつけてよね、そいつ、ずるがしこいんだから。ふう、ね、これで分かったでしょ、あたしが本物の野々原梨々歌だってことが!」

リリカ自身は、できるだけゆっくり、わかりやすく説明したつもりだった。
しかし実際は気ばかり焦ってしまい、自然と早口になってしまっていた。そしてイザベラは健二たちより2倍ぐらい背が高いので、普通にしていても健二たちを見下ろす格好になってしまい、それはそのまま、威圧感になってしまっていた。

魔法。しゃべる犬。光の国。闇の軍勢。空を飛ぶ。身体が入れ替わる。

単語だけ聞いていても、とても常人が発する言葉とは思えない。さらに、露出狂といわれても仕方ない、裸に近いその服装。手には刃物。尖った耳に悪魔のような背中の黒い翼という、人外の要素。
健二は、これ以上の問答は無駄、と悟った。


健二「おい野々原、俺がこいつをなんとしても食い止めるから、お前は校舎沿いに逃げろ。そっちは妖魔がほとんどいない。あいつら足が遅いから、囲まれなきゃ、うまく逃げられる。逃げて、交番でもなんでもいいから助けを求めろ!」
梨々歌「で、でもそれじゃ健二が」
健二「いいから!俺がお前を守るって言ってやってんだ!早く逃げろ!」
健二が梨々歌を片手で突き飛ばした。
思わずよろめき、不安そうに健二を見返す梨々歌。
健二「行け!!野々原!!俺にかまうんじゃねえ!!」
梨々歌「うっ・・・うん」
梨々歌はまだいくぶん躊躇していたが、やがて背を向けて走り出した。

イザベラ「なんで・・・あいつを逃がすの・・・」
健二「・・・・・・・」
イザベラ「どうして・・・あたしには返事をしてくれないの・・・」
健二「・・・・・・・」
イザベラ「あたしが梨々歌だって、さっきから何度も言ってるでしょ・・・なんで、なんで分かってくれないの・・・」

健二は両手両足を広げて、地面にどっしりと構えたまま、微動だに動かない。背後でまだ逃げている途中の、梨々歌をかばうように。
イザベラ「どいてよ!あいつ逃がしたら大変なことになるのよ!!どうしても、どかないのなら・・・」
イザベラは剣を握った右手を高く振り上げた。
はぁっ、はぁっ、はぁっ。
イザベラの息が荒い。いつの間にか、体じゅうに汗をかいている。顔からも、大量の汗が滴り落ちていた。
対峙する健二もまた同様だった。体中に汗をかき、足は小刻みに震えている。無理もない、自分の倍はあろう大人、しかも刃物を持った相手に、文字通り体をはっているのだ。しかし、健二は臆することなく、瞳の奥の強い意志の光をもって、目の前のイザベラを威圧していた。

ああ、まただ。
真希のときと同じだ。
あたしはなにもしていないのに。悪いのは、全部妖魔のイザベラのせいなのに。なぜ、あたしが悪いように言われなくてはいけないのか。なぜ、真希や健二に、憎しみの目で見られなければいけないのか。
どうして誰も、あたしのことを分かってくれないのか。
みんな、あの女が悪い。あたしのことを分かってくれない、健二も、悪い。

はぁー、はぁー、はぁー、はぁー、はぁー、はぁー、はぁー。

イザベラ「なんで・・・・・・・」
健二「・・・・・・・・・・・・」
イザベラ「なんで、分かってくれないのよぉっっっっっっっっ!!!!うぅあああああああああああああ!!!!」
イザベラは健二の首めがけて剣を振り下ろした。

健二「・・・・・!!」

イザベラ「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ」
イザベラの剣は健二の首に触れる直前で止まっていた。
イザベラ「んっ・・・・・ぷはぁっ!!」
荒い呼吸を繰り返した後、一際大きく息を吐くイザベラ。
剣をふたたび振り上げ、一歩、また一歩と後ずさり、肩を上下させながらまた大きく息を吐く。体中から滝のような汗が流れている。顔が青白い。この短時間で驚くほど、顔がやつれてきている。目は大きく見開いたまま、健二から目を離せないでいる。

健二はイザベラが斬りかかかってきたとき、本当に一歩も動かなかった。健二もまた息を荒げ、体中から汗を流している。健二はチラリと後方に視線を向け、遥か遠くで梨々歌が塀を乗り越えているのを確認すると、初めて安堵したように、ほっとため息をついた。

イザベラは振り上げた剣をゆっくり下ろし、自分の目の前で垂直に構えた。細い刀身に、「今の」自分の顔が映る。妖魔相手にはなぜか効かなかったが、人間相手ならば、普通に見た目どおりの切れ味を発揮するだろう。

あれ・・・?
あたしは今なにをしようとしてたっけ・・・?

視線を剣から斜め下方に向けると。
いまだに強い光を放つ双眸がこちらを睨み付けている。


イザベラ「なんで?なんで分かってくれないのよ・・・」
イザベラの目から熱いものがあふれそうになってきたとき。

坂崎「うちの生徒になにをするーーーーっっ!!」
イザベラ「きゃあっ!?」
突然男の教師がほうきを振り回しながら走ってきた。思わず飛びのくイザベラ。
坂崎「せ、せ、せ、生徒に手を出したら・・・許さんぞ!」
健二「先生、なにしてんだよ!」
男の教師は、梨々歌や健二の担任、坂崎先生だった。
坂崎「化け物どもにうちの生徒が襲われているんだ!これが黙っていられるか!」
健二「でも先生、腰が震えてんじゃん」
坂崎「ええい!先生はびびってなどいない!そこのコスプレ女!お前も化け物の手先だろう!」
坂崎はイザベラに向かってほうきの先を突きつけた。
イザベラ「せ、先生、違いますって、あたしは・・・」
坂崎「ええーい、化け物の仲間に先生と呼ばれる筋合いはない!悪霊退散!!」
坂崎はめったやたらにホウキを振りまわり、牽制しまくっている。
健二「じゃ先生、そのオバサンは頼んだぜ!俺は他のやつを助けにいってくる!」
坂崎「こら待て八木!ちゃんと先生の言うとおりに・・・わーーー!近づくな!」
いつの間にか下級妖魔たちが坂崎を取り囲んでいた。ホウキを振り回して応戦する坂崎。
イザベラ「いたっ、な、なに?」
突然背中に衝撃を受け、振り返ってみると、足元にサッカーボールが転がっている。どうやらこれをぶつけられたらしい。
見ると、数メートル先にサッカー部の少年たちが地面にボールを並べている。そして次の瞬間、少年たちはイザベラに向かってボールを蹴ってきた。
イザベラ「いたたっ、や、やめて!!」
3~4個のボールが同時にイザベラを襲う。しょせん子供が蹴るボールだから威力はさほどではないが、とにかく休みなく自分に向かって蹴ってくるので、たまらない。
少年A「妖魔は出て行けーーーーーっ!」
少年B「化け物は出て行けーーーーーっ!!」
少年C「お前らのせいで、木本が、木本のやつが・・・」
どうやら「命のエナジー」を吸われてしまった友達のことを言っているらしい。
イザベラ「ち、違う、まだ、その子は助かるのよ・・・や、やめて!」
バシッ
ボールの1つが、イザベラの顔面にまともに当たった。
顔中が腫れるように痛い。おもわずよろめき、膝をつくイザベラ。心の中に、またどす黒い感情が沸いてくる。
イザベラ「こいつら・・・!」
遠くからサイレンの音が聞こえてくる。しかも、だんだんその音は大きくなってくる。
イザベラ「警察!?」
あるいは救急車か、それとも両方か。学校関係者が呼んだのか、それとも、逃げ出した梨々歌が連絡したのか。
分からないが、これ以上ここにいたらまずい。今の姿で警察に捕まったら、どうにもこうにも釈明のしようがない。
派手なブレーキ音を響かせながら、数台のパトカーが学校前に止まり、中から複数の警察官が出てくる。
警察官「うわっ、なんだ、こいつら!?」
もうぼやぼやしていられない。今は逃げるしかない。
イザベラはボールの雨をかいくぐり、グラウンドを横切り、パトカーが止まっていないほうの塀から学校を出ようとした。
その行く手に、ちょうど下級妖魔がたちはだかる。
イザベラ「どけえええええええええええええ!!!!」
イザベラは怒りを全てを吐き出すかのように飛び蹴りを放つ。蹴り飛ばされた妖魔は後方にふっとび、そこにいたもう一体の妖魔を巻き込みながら、派手に校舎の壁にぶち当たった。
イザベラ「今のあたしの・・・邪魔をするなぁっっっっっ!!!!」
イザベラははき捨てるように叫ぶと、足から着地、さらにその勢いのまま数歩ステップ、1、2、3。
イザベラ「たぁっっっ!」
手をつくこともなく塀を飛び越してゆく。
ダン!
塀の外に着地すると、学校での騒ぎを聞きつけた野次馬たちが人だかりを作っていた。
突如現れた、奇妙な格好をした女を、好奇の視線で見回している。
今のイザベラは、そんな一般市民の呑気な態度がひどく癇に障った。
みんなが死にかけているというのに、あたしがひどい目に遭っているというのに、こいつらは!!
イザベラ「道を開けろ!!斬られたいの!?」
イザベラは群集に向かって剣をつきつけ、ブンッと、ひときわ大きく振ってみせた。
ざわっ。
真剣を目にした人々は一同にどよめき、さっと左右に別れ、道を作った。
イザベラ「最初っからそうしてりゃいいのよ!誰のおかげでこんな目に遭ってると思ってんの!?」
イザベラは口汚く罵りながら、群集が開けた道をひた走った。

今のリリカは、完全に心の余裕を失っていた。
イザベラ「腹が立つ!腹が立つ!腹が立つ!みんな、みんな、みんな、みんなあいつが悪いんだ!!!!あああああああああ!!!!」
日も完全に沈み、暗闇に支配されかかっている街の通りに、イザベラの叫び声が響き渡っていた。





その6に続く。
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by irekawari | 2007-06-18 23:42 | 女同士の憑依・乗っ取り