白雪姫「女同士入れ替わりと、女同士の憑依が好きです。


by irekawari
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灼熱の料理人 クッキングファイター・ダイゴ第48話 (全4回のうち3回目)

灼熱の料理人
クッキングファイター・ダイゴ

第48話「最終章・其の一 ダイゴよ気付け!!罠に堕ちたメイリン」
(全4回のうち3回目)






メイリン「な、な、なに言ってるのダイゴ!?」
入れ替わりの事実に気付いたかのようなダイゴの発言を聞き、どんな男も魅了するような蠱惑的な笑みをうかべていたメイリンの表情が、引きつったようなぎこちない笑顔に変わる。
メイリン「あ、あたしがメイリンじゃなかったら、誰がメイリンだっていうのよ!?」
メイリンは平静を装い、極めて当たり前の返答をしたつもりだが、言葉がどもっているところからも、心の動揺が見てとれる。メイリンの額から冷や汗が一筋、頬を伝って流れ落ちた。

まずい。
ばれた?

メイリンは心の中でつぶやいた。
もちろんメイリンと玲子が入れ替わっていることに、である。
ここまで全て自分の思惑通りに事を進めてきたメイリン。メイリン=シャミーを拉致・拘束し、ボディチェンジで身体を入れ替え、そのまま玲子の身体のメイリンを拘束し続け、自分はメイリンになりすましてダイゴに接触、女の武器を最大限駆使してダイゴを攻め、玲子の身体のメイリンに絶望を与えつつ、自分はダイゴに告白。メイリンの若く美しい身体も、御門での地位も、そしてなにより、愛しい人の、ダイゴの愛を。全てを手に入れるはずだった。
告白の前にいきなりキスという、過剰なお色気攻撃が、さすがに不自然すぎたか。
ダイゴは恋愛面には疎い傾向があるので、いきなり言葉による告白よりは、身体のスキンシップから攻めたほうがいい、とメイリンは思い、上半身裸で胸を押しつけつつ抱きついたり、そのままキスをしたり。ここまでして、目の前の自分を「女」として意識しないわけにはいかないだろう。実際、ダイゴは相当動揺していた。自分の女としての性を十分アピールした上で、告白につなげた。流れは完璧だったはずだ。じゃあ、なぜ気付かれたのか?

いや、待て。
ダイゴはメイリンか?と疑問形で聞いている。
まだ私が宮内玲子であると、まさかそこまでは分かっていないはずだ。
なぜダイゴがこんなことを言い出したかは分からないが、入れ替わりには絶対に気付かれていないはず。
落ち着け、私。
今まで通り、メイリン=シャミーを演じていれば、問題はない。

メイリンは自分に言い聞かせた。





一方、壁の向こうの、宮内玲子は。
大切な人を、ダイゴを奪われるかもしれないという絶望を味わい、悲しみによる大粒の涙を流していた。
が、その涙も今は止まっている。
玲子「え・・・・・・なんで・・・」
玲子は眼鏡の奥の瞳を大きくまばたきさせ、少し呆けた状態で小さくつぶやく。



自惚れるわけではないが、ダイゴは、ダイゴはたぶん、私のことをす・・・す・・・好き・・・で、いてくれると思う。・・・こうして心の中で思うだけで、胸の奥が熱くなり、自分の頬がかぁっと赤くなるのが分かる。
ダイゴがあたしのことを好きかどうかについては、根拠はない。
なにをおいても料理のことが第一!で、恋愛に関することには疎いあの男のことだから、そもそも自分を「女」として見ているかどうかも怪しい。が、19年間ずっと一緒に生きてきて、その長い時間の中で、ダイゴの考えていることは、言葉ではっきり言わなくても、なんとなく肌で感じて分かるようになっていた。
料理を覚える過程で武術も習い、体つきも随分たくましくなったダイゴだが、未だに心の中は子供みたいなところがある。共に19歳となった今でも、たまに口喧嘩することもある。けど、それは表面的なことだ。子犬同士の喧嘩が単なるじゃれ合いであるように、それもコミュニケーションの一部である。
あたしも、ダイゴのことが好きだ。いつからダイゴを「男」として意識するようになったかは、もう覚えていないが、はっきりダイゴに自分の気持ちを伝えなくても、これから先も、ずっとダイゴと一緒にいられれば、それでいいと思っていた。
だがしかし。
そんなのんびりしたことは言えなくなってしまった。
あたし達が日本に来て、ダイゴが御門と料理勝負するようになってから知り合った、御門の社員の宮内玲子さん。その玲子さんが、なんとダイゴのことを好きだという。
そのことを玲子さんの口から・・・正確には「あたしの口」からなのだが、まあそれはおいといて・・・聞かされたのが、ついさっきのことだ。
あたしは驚いた。あんな料理バカのどこがいいのかと思ったが、それを言えばあたしも同じだ。人のことはいえない。
それと、もう1つ驚いたことがある。玲子さんとダイゴは、これまでにも何度も会っている。あたしも、恋愛に敏感なわけではないが、恋する女同士として、しかも、好きな人が同じであれば尚更、玲子さんのその気持ちに気付くはずである。でも、それまでの玲子さんからは、ダイゴのことが好きだという気持ちは感じられなかった。ということは、今までは他人に悟られぬよう、自分の気持ちをひたすら抑えていたことになる。ダイゴと会うときも、極力「仕事」と割り切って接触していたのだろう。好きな人を目の前にして、自分の気持ちを隠さなければいけなかった理由についてはよく分からないが、同じ女として、その辛さは十分に分かる。だが、玲子さんはその隠してきた気持ちを、意外な方法で披露してきた。
それが、この変な機械であたしと身体を入れ替えること、である。
中国にいたときも、いいかげんいろんな大変な目に遭ってきたが、さすがに身体をそっくりそのまま入れ替えられる、なんて体験は初めてだ。今、自分が玲子さんの身体になっていることも、現実に自分の手足が、顔が、身体が、玲子さんのものになっていることを目の当たりにしても、まだ少し実感がないぐらいだ。
しかし、ほとんど間をおかずに、身体が入れ替わっていることをイヤでも実感せざるを得なくなった。
あたしは玲子さんの身体のまま、この密室に閉じこめられ、あたしの身体になった玲子さんはあたしになりすまして、あたしを助けに来てくれたダイゴに、抱きついた。
そして、キスをした。
本当のことをいえば、玲子さんに少し、いやかなり黒い感情を持った。
自分のファーストキスをとられたこと・・・というよりは、あんなにあっさりと、ダイゴにキスしたこと。自分の気持ちをダイゴにストレートにぶつけているという、同じ女として羨む気持ちや、反発心。そして、身体を入れ替えてまで、「あたし」になりすましてそれらのことをしているという、明らかに「悪意」を持ってのそれらの行為に。
胸の奥にどす黒い感情が沸き起こる。
その瞬間、たしかにあたしは玲子さんを憎んだ。
しかしすぐに、憎しみとは別の感情が、あたしの心の中を覆った。
胸が張り裂けそうな思い。自分が自分でなくなりそうな、そんな果てしない絶望感。
ダイゴが誰かのものになってしまうなんて、考えたこともなかった。壁一枚隔てた向こうで、ダイゴは、玲子さんのものになろうとしていた。あたしの姿をした、今やあたし本人となった玲子さんによって。
いやだ。
いやだ。
聞きたくない。
あたしは、あたしはダイゴの気持ちが、分かる、分かるつもりだ。
ダイゴもきっと、少なからず、あたしのことを思ってくれているはず。
あたしが、自分の秘めた想いをダイゴに伝えたら。
その手の話題に慣れていないダイゴのことだ、顔を真っ赤にして、あたふたするに違いない。
もしくはそっぽを向いて、照れ隠しのために適当な軽口を叩くかもしれない。
しかし、ダイゴなら、きっとあたしの思いを受けとめてくれるだろう。
何度もいうが、それはあたしの自惚れかもしれない。
根拠もない。
確信もない。
言葉で確かめたわけでもない。
けど、あたしには分かる。言葉では上手く説明できないが、あたしはダイゴのことがすべて分かっているつもりだし、これからも、ダイゴのことを一番分かってあげられる存在でいたい。
そんなあたしだから、もしあたしがダイゴに告白すれば、ダイゴがどんな返事を返してくれるかも分かる。
それは、あたしにとってこの上ない喜びを感じる言葉であるはずなのに。
今この状況で聞かされたら。
もちろん、その言葉を向けられているのはあたしではない。あたしの身体の、あたしの姿をした玲子さんに向けられている。
ダイゴが、あたしではない他の女に、あたしではないはずのあたしに。

「好きだ」と言ってしまったら。

待ち望んでいたはずのその言葉は、もはや死刑宣告でしかない。
考えたただけでで目の前が真っ暗になる。心を闇が覆い尽くす。
大げさなようだが、今の自分が在るのは、ダイゴがいるからだ。ダイゴが傍にいること、それが自分にとっての普通である。ダイゴのいない生活など考えたこともない。ましてや、他の女のものになることなど。
ダイゴのいなくなった世界で、あたしは生きていけるのか。他に好きになれる人を探すとか、生きる方法はいくらでもあるだろう。が、今はそんな心の余裕がない。

そして目の前では、今まさに、あたしではないあたしが、ダイゴにその想いを伝えようとしていた。
何も考えられなかった。
叫ぶしかなかった。
苦しくて苦しくて、やがてあたしは現実から目を逸らした。

自分のすぐ近く、壁の向こうで起こっている最悪な出来事を認めたくなくて。子供が駄々をこねるように、何も見ない、何も聞かないことにして、現実を拒否しようとした。
しかし、あたしにとって最悪なその言葉は、最後まであたしの耳に届くことはなかった。
ダイゴが止めたのだ。
令子さんの、好きという告白を。



ダイゴが、目の前のあたしがあたしじゃないって、気づいてくれた?
宮内玲子の心の中に、かすかな希望の灯がともる。
だがしかし、同時にまだ半信半疑でもあった。
入れ替わりの事実を知らないはずのダイゴが、なぜそんな質問をするのか?
まだ分からないことだらけだ。
玲子は目の前のモニターに映るダイゴの姿と、スピーカーから聞こえてくる音声に神経を集中した。




ダイゴ「あ、いや、うん・・・そうだよな、メイリンがメイリンじゃないはずないよな」
逆にメイリンから問い返されたダイゴは、メイリン以上にしどろもどろになっていた。
メイリン「あ、当たり前よ・・・そ、それより、さっきの続きなんだけど・・・」
メイリンは少し怒ったふりをしながら、告白の続きをしようとする・・・が、ダイゴが腕を伸ばしたまま自分の肩をがっちり掴んでいるものだから、再び抱きつこうとしても身動きがとれない。
メイリン「ちょっとダイゴ、痛いから・・・腕、離して」
別にダイゴは力を込めているわけではないので本当に痛いわけではないのだが、こうしてくれないといつまでも離してくれなさそうなので、あえて口にしてみた。
ダイゴ「あ。悪い悪い」
ダイゴはようやくメイリンの肩をつかんでいた手を離した。
身体が自由になったので、メイリンはまたダイゴに抱きつこうとしたが、当のダイゴが、さっきから目が泳いでいるし、なにやらあたりをきょろきょろ見回していて、心ここにあらず、といった感じで、完全にそんな雰囲気ではなくなってしまった。
メイリン「ねえダイゴ、いったいどうしたの?今のダイゴ、ちょっと変よ?」
せっかくの告白のチャンスがフイになってしまい、メイリンはちょっとふてくされながらダイゴに聞いた。

ダイゴ「あ、いや。なんかこの中にさ、メイリンがもう一人いるような気がしてならないんだ」
ダイゴはトレーラーの中をぐるりと手で指し示すような仕草をしながら答えた。

メイリン「えっ、も、もう一人!?」
メイリンは、さっきのダイゴの質問のときと同じぐらい、ドキリとした。
ダイゴがものすごく核心をついたことを言ったからだ。
もう一人のメイリン。
それはすなわち、この壁1枚隔てた向こうにいる、宮内玲子の身体をした、本物のメイリン=シャミーのことだ。


玲子「も、もう一人のあたしって、ダイゴ、まさか本当に・・・あたしに気づいている!?」
ダイゴの声をスピーカー越しに聞いていた玲子もまた驚いていた。
まだ半信半疑だった気持ちが、だんだんと確信に変わっていく。



ダイゴ「自分でも変なこと言ってると思う。でも誰かが居るのを感じるんだ。メイリンはここにいるから、それはメイリンじゃない他の誰かなんだろうけど・・・すごくメイリンに似た、もう一人のメイリンのような『気』を感じる。その『気』の持ち主は、俺にとってすごく大切な存在のような気がするんだ・・・」
ダイゴは、言っている内容はすごく不確かな内容だったが、その口調は力強く、はっきりしたものであった。

メイリンはようやく理解した。
武術の達人でもあるダイゴは、人が誰でも持っている潜在エネルギー、『気』を扱うことができる。そして、『気』を扱う者であれば他人の『気』をも感じることができる。
メイリン自身は、体術に関しては護身術を習得している程度で、自身は『気』を使うことはできないが、一応知識として『気』のことは知っている。そして実際、ダイゴが『気』を使って戦っている場面を何度か見たことがある。
間違いない、ダイゴは、『気』を感知する能力を持って、壁の向こうに閉じこめられている宮内玲子の身体の中の、メイリンの存在を察知したのだ。
まずい。
事態は、メイリンにとって、不利な状況になりつつあった。


壁の向こうの玲子も、ダイゴの発言から、ダイゴが自身の『気』を感じ取って、自分の存在に気づいてくれたことを理解した。
しかし、どうやって自分をみつけたか、という理由よりも、自分に気づいてくれた、ただそのことがなによりも嬉しかった。
世界が暗闇に覆われるような圧倒的な絶望の中で、ダイゴが、ダイゴだけが、あたしに気づいてくれた、分かってくれた。
もうそれだけで胸がいっぱいだった。
玲子「ダイゴ・・・」
一言、大切な人の名前を呼ぶだけでせいいっぱいだった。
目が熱い。
涙腺がゆるむ。
ついさっきまで悲しみの涙を流していた目からは、また新たに涙があふれ出していた。
しかしそれは悲しみによるものではなく、世界で唯一、ダイゴだけが自分のことを分かってくれたことに対する、嬉しさからだった。


メイリン「ちょ、ちょっと待ってよダイゴ。黒服はあらかたやっつけちゃったんでしょ?このトレーラーの中に、「誰か」なんているわけないじゃない!」
メイリンが必死に抗議する。
ダイゴ「悪いメイリン、ちょっとの間、静かにしていてくれ」
ダイゴは目を閉じ、呼吸を整え、足を少し開け、右の手のひらを前方に突き出すような姿勢をとった。
意識を集中し始めているダイゴ。どうやら、さっきのメイリンの抗議も、ほとんど聞いていなかったようである。
ダイゴは、これと決めたら少し頑固なところもある。
そんなダイゴの性格をよく知っているメイリンは、これ以上ダイゴに何を言っても聞かないだろうことを悟った。
ダイゴは右手をかざしたままトレーラー内を少し歩き回った後、トレーラーの一番奥の壁の前で足を止めた。
ダイゴ「こっちだな・・・ここ・・・この壁の向こうに、誰かの『気』を感じる・・・すごく懐かしいような、落ち着くような・・・そんな波動を感じる」
そこまで言って、ダイゴはかざしていた右手を下ろし、目を開けた。
メイリン「くっ・・・」
メイリンは歯噛みした。
ここまでうまくいっていた計画が、すべて台無しになろうとしている。
ダイゴはもう、壁の向こうに誰かが居ることを確信している。
厚さ50センチのこの壁は簡単には破られないはずだが、ダイゴなら、どうにかしてぶち破ってしまうだろう。
壁の向こうにいる私、宮内玲子の身体をしたメイリンを発見したら、もう騙すことは出来ないだろう。
ダイゴに救出されたあの女が、これまでの経緯を全部ダイゴに話したら、それで終わりだ。
そんなことになったら、いくら私でも、これ以上誤魔化すことはできない。
メイリン「ちっ・・・」
メイリンは今度は舌打ちをした。
こんなことなら、変にあの女への復讐を考えずに、さっさとあの女を地下にブチ込んでやればよかった。
もしくは、せめてあの女を眠らせるとかしていれば、仮に私の身体が発見されても、なんとでも言い訳はできたのに。
メイリンは激しく後悔したが、それこそ後の祭りである。


玲子が見ている壁のモニターの画面いっぱいに、ダイゴの姿が映る。
どうやら、このモニターに映像を送っているカメラは、壁をはさんで、ちょうど向こう側、つまりダイゴにとっての目の前の壁についているらしい。そのカメラはよほど小さくて、外からはわかりにくいのだろう。
玲子「そうよ、ダイゴ、あたしはここよ!」
声は向こうには届かないと分かっていても、呼びかけてしまう。大切な人が、そこにいるから。
さっきまで感じていた絶望は、もう玲子の心の中にはなかった。

ダイゴ「よし、今からこの壁をぶち破る」
ダイゴがとんでもないことを言っている。
どうやら本気でこの壁をぶち破る気だ。
メイリン「ねえダイゴ、もうやめてよ!あたしはこうして無事だったんだから、もういいじゃない!そんなことしたって、なんになるの!?」
メイリンは両腕と両手を開きながら、無駄と知りつつも、それでも抗議の言葉を続ける。
ダイゴ「俺が納得できないんだ。大丈夫、すぐ終わるって。危ないから、ちょっとどいてろよ」
ダイゴはメイリンに向かって少しだけ振り向き、左手の手のひらで「下がってろ」の合図をした。
メイリン「ちょっ・・・」
メイリンがなおも抗議しようとしたとき。
ダイゴは正面の壁に向き直り、腰を少し落とし、腰のところで両手の拳を握り、構えをとった。
ゴオッ!!
その瞬間、ダイゴを中心に、目に見えない「力」の波動が放出され、トレーラー内の大気が震えた。
その目に見えない「力」を感じたメイリンは、思わず数歩後ずさってしまう。
ダイゴ「はあああああああああああああああああ!!」
ダイゴは瞬間的に自分の中の『気』を高めた。そしてそれをさらに増幅していく。
ダイゴ「おーい、そこに誰がいるか知らないが、できるだけ上のほうをぶち抜くから、ちょっとしゃがんでろよ!」
ダイゴは『気』を高めながら、壁の向こうにいる誰かに向かって、できるだけ大きい声で呼びかけた。


玲子「しゃがめったって!身動きとれないのよ!!」
壁の向こうで玲子が反論した。
玲子は未だに、椅子に金属ベルトで手足を固定されていて、身動きできない状態である。
椅子に座っているので、姿勢は低いといえば低いほうなのだが。下手をすれば、ダイゴが壁をぶち破ったときの衝撃に巻き込まれるかもしれない。
しかし、ダイゴほどの力量なら、『気』を探る力で、相手のだいたいの位置はつかめているだろうから、壁の向こうの相手に、衝撃が行くようなことはしないだろう。
玲子はダイゴを信じて待った。ダイゴなら、きっとあたしを助けてくれる、そう信じて。



メイリンは考えた。
あともう少しでこの壁は破られる。私の考えた計画も、全て水の泡になる。
入れ替わったこの身体も、元に戻ってしまうだろう。
そうなったら、私とダイゴの関係はまた逆戻りだ。私が御門に属している以上、ダイゴとは仕事の中の、ごく限られた時間しか会えない。私がダイゴへの恋で苦しんでいるときに、あの女はダイゴにべったりとまとわりついているのだ。そしていずれ、ダイゴはあの女のものになってしまうだろう。
そんなのは耐えられない。
またあの苦しい思いを味わうのか。
ダイゴにまとわりつく、害虫のようなあの女を、幸せにさせていいのか。
だめだ。
こんなところでは終われない。
もう時間もない。
ダイゴが、あともう少しでこの壁を破ってしまう。
考えろ。
考えるんだ。
なにか、なにか邪魔ができればいい・・・



ダイゴ「っはああああああああああああああああ!!よっしゃ!!」
『気』が完全にたまったダイゴは、その『気』を右の手のひらに集め、今まさに、目の前の壁に向かって一撃を放とうとしていた。
ダイゴ「いっくぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
ゴォォォォン!!
ダイゴが左の足でトレーラーの固い床に力強く踏み込み、壁に向かってその『気』を一気に全放出しようとした、
そのとき。



メイリン「ダイゴ、決勝大会で使う料理のアイデア、今浮かんだの!!」



ダイゴ「!!!!」



玲子「へ?」



メイリンが、今まさに壁に向かって渾身の一撃を放とうとしていたダイゴに向かって叫んだ次の瞬間。
ボシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ
という、蒸気が抜けるような音がして、さっきまでダイゴが極限まで高めていた『気』が、一気に拡散、消滅した。

メイリンは、自分の胸に両手を当てた状態で動きをとめている。
叫んでみたものの、この後自分でもどうしていいか分からない状態のようだ。

ダイゴは、腰を落としたまま、壁に向かって手を伸ばし、一撃を放とうとしていた姿勢のままで固まっている。

玲子は、目を大きく見開き、口をぽかんと開けている。
なにか信じられないことを聞いたような、放心状態のような表情である。


ダイゴ「ほ、本当かメイリン!!??」
メイリン「ひぁっっ!!!!」
メイリンは、突然自分の前にダイゴの顔が現れ、しかも大声で叫ばれて、素でびっくりし、素っ頓狂な声をあげてしまった。

ダイゴは構えを解き、メイリンのほうを振り向いたかと思うと、神速の速さでメイリンに近づき、彼女の肩をがっしりつかんで、さっきの言葉をかけたのだ。その移動スピードがあまりにも速かったため、メイリンにはまるで突然目の前にダイゴがワープしてきたように思えたのだ。

ダイゴ「どんなのを思いついたんだ、メイリン!?俺が三番目に考えていたアレか?それとも先週旅に出ていたときに教えてもらったアレか?ひょっとして、メイリンが考えてくれていたアレとかコレとかソレで、別の方法のがあったのか!?」
メイリンは、目の前の、ものすごい勢いの早口でしゃべるダイゴの、その目に、
まるで灼熱の炎のように燃えている。
気がした。
メイリン「えっと、あの、その・・・ね」
メイリンはダイゴの燃えさかる炎のような気迫に圧倒され、すぐには何を言っていいか分からなかったが、すぐに冷静さを取り戻し、次の言葉につなげた。
メイリン「ま・・・前の御門との試合で使った、鴨の料理!あれの、別の料理方法を思いついたの!!」
メイリンは、いや宮内玲子は、料理人ではない。が、御門グループの料理部門の広報係として、並みの料理人と同じ、あるいはそれ以上の料理知識を持っていた。そして、今まで御門が関わってきた料理大会で使用された料理は、御門が直接作った料理以外の、敵の料理人が作った料理の内容も、レシピに至るまで完璧に記憶していた。
メイリンはそれらの膨大な料理知識の中から、ダイゴが知らなさそうで、かつ決勝大会でも通用しそうな料理をひとつ選び、口にして言ってみた。
口から出まかせを言ったのでは、料理人であるダイゴにはすぐにバレてしまう。
メイリンの、料理に関する知識が、ここで役に立った。
ダイゴ「おおっ、アレか!?アレは、俺もあれ以上の方法はみつからなかったんだが・・・どんな方法だ!?焼くのか?煮るのか?蒸すのか?それとも他の材料と合わすのか?」
勢いを止めず、まるでマシンガンのように、またも早口でまくしたてるダイゴ。
ダイゴはしゃべると同時に、顔と上半身もメイリンのほうに近づけているから、メイリンはその気迫と勢いに押され、ダイゴとは逆に上半身が反り返ってしまう。
メイリン「あ、あの・・・口では伝えづらいから!!み・・・店に帰ってから、実際にやって教えるわ!」
ダイゴ「ん、そうか。実際にやりながらのほうが、俺もすぐに体で覚えられるからな。よし、じゃ店に帰るぞ!」
ダイゴはメイリンに近づけていた顔と上半身を戻し、メイリンの肩を掴んでいた手を離したかと思うと、トレーラーの入り口に向かってダッシュ、その勢いのまま、「とおっ!」とかいいながら、トレーラーの荷台から地面に飛び降りた。
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by irekawari | 2007-04-22 23:55 | 女同士入れ替わり